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2004年 06月 13日

逃避と徹マン

もはや自らの心の弱さには感嘆すら覚えるしかないですが、まだ狂騒は続くようです。


また溜まっているので非常に簡単にいきましょう。

剛しいら『見知らぬ男』はAの方のもの。続編だが読ませることは事実。
ただやはり初読の衝撃がない分だけ微妙にだれというか、設定への甘えが見られる。
特に、役に完全になりきるという攻の行動が主眼で受が翻弄される前半は楽しめたが、
終わり近くなって急に脈絡無くラブラブっぽくなってくるのは正直どうかと思った。
あとやはり芸能界での挙動について書かれ出すと、個人的には嫌悪感が募るので、
前作を高く評価する身としてはもう少し安直さを脱した形で続編をものして欲しかった。


渡海奈穂『放課後は秘密のふたり』は、個人的にツボにくることが多い作家なので
期待していたのだが、やはりその期待を裏切らないでくれたので非常に評価は高い。
お互いにただ見つめるだけの関係から徐々にお互いが枠を踏み外していく様子を、
これだけ切々と書いてくれる作家はそういないと思う。読んでいて身もだえしてしまう。
さらにようやく出来上がった後であってもお互いの遠慮や躊躇いぶりを描いてくれて。
特に受のけなげさなどは感涙ものとしか言いようが無い。一家に一人欲しいねえ(爆)。
こういう(特に受の)遠慮を描いたものだと、いわゆる「朝ちゅん」作家に見られるような
自らへの甘えというか傲慢さ、幼さなどが鼻につく場合が多いが、この作家の場合は
そうしたエゴの押し付けは感じられず、むしろ自ら距離をおいていく様が描かれている。
私はこういう受の方が好きだなと。朝ちゅんは移入できなくなると辛いものがあるので。


のもまりの『ストリッパー』はホストものではあるが、ど派手さと強引な攻めだけで
話を進めるのではなく、それなりにうまく転がしていたので悪くは無いと思った。
受の設定や行動などはありきたりになってしまいがちなのに、それでも読ませるのは
構成力や筆力のせいなんだろうなあ。漫画に倣ってしっかりプロットを立てたのか。
それにしてもホスト物には毎回のように「若くて才媛で豪気なパトロネス」が出てくるが
いったい何故なんだろか。攻のライバルになるから男が出せないというのは分かるが。
女性読者はどう読むのかねえ。自らの仮託だったらどうしようかしらん。


黒部千世『愛の罠、恋の蜜』はなあ、芸者屋という舞台の特殊さや攻が女装したりと
なかなか破天荒な設定だし、酔って関係を持ってからも中盤で妙なイベントが入り、
後半までトラブルが引きずられるというのも長編の展開としては珍しいだろう。
実は密かに文章のテンションが高いことや、軽いように見えてそれなりに心情移入が
できるように書いている辺りが悪くないので、あわせて一本という感じの評価だが、
ストーカー騒ぎや中盤の一夜等、妙なイベントを入れた割に処理できていないのが×。

(初出:『Ethos』「やおい雑記」。本記事は2006年10月12日に転載されたものです。)

by bonniefish | 2004-06-13 05:41 | 小説感想


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