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2010年 08月 07日

綺麗なだけではいられない

前の記事でいろいろ書きましたが、今はもう微熱と腹具合程度に治まっております。
それでも3日に2ロールのペースでトイレットペーパーがなくなりましたが(苦笑)。


さて、病床で読み返したのが、以前感想を書くと予告した朝丘戻。の『君に降る白』。
私の把握する限り彼女の初のハッピーエンドもので、昨夏出た4年ぶりの単行本です。

コバルト文庫からぱたりと姿を消し、復活かと思った携帯小説も次作が続かず、
このまま商業から、下手をしたら801業界から姿を消してしまうかと思っていた所、
思いもよらずダリアから新作発売と聞いて喜び勇んで本書を読んでからもう1年近く。
ましてやそれがハッピーエンドだったのですから読後の満足感はひとしおでした。

対人関係に臆病な主人公のぎこちない言動の中に滲む恋情がうまく描かれていて、
描写力に裏打ちされた切ない系の雰囲気は流石で、しかもそれが行き過ぎておらず、
これは作者の元からの筆力とと、復帰作ゆえ現れた筆や話の運びのぎこちなさとが、
うまいこと主人公の心理や言動とマッチしているせいもあるなあと思いました。

終盤で相手を慮った主人公により相手は一旦引き下がるので、これまでの経験から
このまま別れて終わるのだろうなあと思っていたら、主人公が知人から助言を受け、
さらには次章で自分から相手に会いに行くことを決意するという前向きな展開に。
思えば別れのシーンで主人公側から縋るような科白が出たのが伏線だったわけで。
再会の場面でも一波乱あり、主人公はさらに一歩踏み出して両思いとなるのですが、
この場面での相手の語る言葉の数々は作者の真骨頂で、その秀逸さに感嘆しました。

先ほどぎこちなさの点に触れましたが、本作で一番ぎこちないのはエピローグ部分。
おそらく作者にとっても初の甘々な後日譚なわけですから、何か色々ぎこちない。
主人公の科白が幼児化したり、地の分に擬音やオノマトペが増えたりするのですが
これまたできたての二人のベタな雰囲気にマッチしていて大変によろしいかなと。
作者の照れあるいは不慣れさが作品に直結しているようでほほえましい限りでした。


この辺りの作者と作品の繋がり具合を見るにつけ、本作で初めてハッピーエンドが
書かれたのは、作者自身の変化によるものではないかという推測が働くわけでして。

恋愛への理想や希望が純粋すぎて作中ですら他者と共有できないレベルだったのが
恋愛の持つ幼児的、動物的な部分、情動の醜悪さや悪感情のぶつかり合いなどの
具体的で生々しく、美しくない側面と、それすら凌駕する相互承認の幻惑的な甘さ、
これら清濁を作者自身がようやく併せ呑むことができたのではないかとも感じました。
もちろん旧作の玻璃を八重に編んだような硬質な恋情の描写も素晴らしいのですが、
成就せぬがゆえに美しいものに固執することには賛同しかねるものがありまして。

過去は切ない系のまま突っ走って、両思いであっても別れるという展開がお決まりで、
決して悪くはない(初期作品は素晴らしいエンディングだと思いました)ものの、
あえてハッピーエンドを避けているような作為的な感が気になっていたのですが、
本作のようなハッピーエンドの作品を読んでみると、作者の筆力の確かさと共に
やはり主人公たちが両思いとなる方がこの作者の物語としても自然だと思いました。
(ただ本作は初の試みかつブランク明けもあってか結構急展開での着地でしたが。)

そうすると、この数年間(携帯小説からでも2年)のブランクは、作者にとっても
意義のあるものだったのだろうと思い、新作を待っていた甲斐もあったと思います。
恥を忍んで告白しますが、私は上記の携帯小説を読むためにコバルトの携帯サイトに
日参していた時期がありまして・・・。期待に違わぬ出来だったもので年甲斐もなく。
ちなみに媒体が媒体ゆえなかなかアクセスする気にならず、一読するまでは
いわゆる他の「ケータイ小説」同様の記号群だったらどうしようかとビクビクでしたが。


実は次作の『猫のためいき。』も購入してあるのですが他の積ん読本に埋もれていて
読了はしばらく先になりそうです。楽しみは後に回す性格というのも難儀ですね。

by bonniefish | 2010-08-07 12:28 | 小説感想


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