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2007年 08月 09日

『曖昧にして不埒な願い』

前回の記事は現在の心境を表してどうも回りくどいですが,言いたいことをまとめると,
「この作品世界でこのような登場人物がこのような言動を見せることに至極納得が行く」
という観点での「リアルさ」を称揚していることと(特に恋愛感情を巡る情動について),
「そもそも作品世界そのものについて自分が許容できるか否か」という観点において,
合理性や客観性を過度に欠いた「ご都合主義」を糾弾していることの2点になるのかと。
もっともいずれの観点とも私の判断にかかるものですので,個人的な嗜好や人格による
バイアスから逃れられていないとは思います(自分なりに修正はしているつもりですが)。


さて,今日の本題である「作家の趣味」の話に移ります。なるべく手短に行きましょう。
作家として作品を形成する場合,それは第三者に何かを伝えようとしている訳ですから,
相手にそのメッセージを伝えるためにどのような手法をとるのかが肝要となるはずです。
これは作品世界やキャラの設定から,話の展開,描写方法等各点に及ぶと思いますが,
今回の問題意識は作品の「設定」に関するものですから,話をこの点に絞りましょう。

人が作品を作ろうと考える場合,その表現欲の原動力またはコアとなるメッセージは,
作者自身が積極的な価値を与えているものである場合が多いのではないでしょうか。
自分が好きなものを誰かに伝えたい,というのは自然な感情の一つだと思いますので。
ただ,伝達を志す以上は,設定においても一般に理解が得られやすいものとした方が
良いということになりますし,仮に一般的でない設定を伝えたいと思うのであれば,
理解が得られ易い要素を取り入れたり説明を分かり易くすることが望ましいでしょう。

創作意欲というのは作品の魅力を向上させるための最も重要な要素でしょうから,
自分の趣味を作品に出すこと自体は全く謗られるべきものではないと思うのですが,
作品として世に問う以上は読み手にも伝わりやすくして欲しいなあとも思うわけでして。
あまりに趣味にだけ走られてしまうと「作者だけが楽しい作品」になってしまいますので。
一般受けする趣味ではないことはオリジナリティを獲得しやすいことにも繋がりますから
その趣味を作品としての魅力に繋げることができればより良い作品になると思いますし。
まあ作者の趣味が暴走して理解し難い,あるいは説明が足りない作品になったとしても,
万人受けだけを考えたテンプレ塗れのベタ作品よりはマシなのかも知れませんが・・・。

また,先に述べたとおり,作者が「同じ趣味」の作品ばかりを発表してしまうこと自体は,
不可避なことも否定できないでしょう(もちろんそうでないことが好ましいと思いますが)。
それでも,趣味それ自体やその描写が魅力的なら作品の価値は損なわれ難いでしょうし,
作品のその他の要素において独自性を加えたり表現手法を工夫したりされていれば,
特段批判されることには繋がり難いでしょう。逆に言えば,ただ萌えを垂れ流すような
作品ばかり書いてしまえば,趣味に走りすぎとの批判は自ずと免れ得ないでしょうし。

結局,作者が自らの趣味を作品に投影することは創作意欲の点等から自然なことで,
創作のモチベーションや作品の質の向上に資する点に鑑みても謗るべきではないが,
趣味に甘えたり没頭したりして話やキャラの設定を疎かにすべきでもないということかと。
換言すれば,作者が持っている趣味を作品上でどのように昇華させているかによって,
「個性」として称揚されるか「独りよがり」として謗られるかが決まるのではないでしょうか。


今回のコメントが取り上げている点は,私と作家側の双方の主観に関わるものですので
異論や違和感を感じる方も多いでしょうし,そもそもどこまで理解が得られるか疑問です。
まあ何気なく「好き/きらい」だけで済ませがちな点についてちょっと考えてみることは
大変に面白いことだと思いますので,本記事がきっかけにでもなってくれれば幸甚です。

by bonniefish | 2007-08-09 23:59 | 長文雑想


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