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Ethos-Annex

tanbi3.exblog.jp
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2004年 12月 29日

貶すは易く褒むるは難し

本サイト設立以来のカウンタの回り具合に驚愕しております。ありがたいことです。
斯くも怠惰な更新にも関わらず数多訪なって頂く方も居られ慙愧に耐えませんが。


李丘那岐『演じる恋、本気のキス』はオーソドックスだがベタな印象が強い作品。
突然暴漢に襲われ幼馴染に助けられる、本人の知らない所で身柄を絡め取られる、
実は相手が自分の業界の関係者である等の個々の要素だけならさほどくどく無いが
あまりにまとめて詰め込まれるとなんだかなあという脱力感も湧いてきてしまう感じ。
特に当て馬も含めた攻の暗部が唐突だし描かれ方も浅いので、重要な要素なのに
リアリティがまるでないし、キャラの設定に深みを与えるどころか逆効果になっている。

何より致命的なのは、主人公の受の演技力や劇団での芝居の描写の薄さなのだが。
少なくとも準主役に抜擢されるという設定なら一人称だけで描くのでは描写として弱く、
感覚に留まらない第三者的な描写が無いと、単なるのナル野郎とも読まれかねない。
ただでさえ上述の通りご都合感が強い作品なので尚更ありえなさ感が募ってしまった。
ビギナーが手に取る分には破綻も無くお約束もちりばめられたハッピーエンドなので
それなりに楽しみ得るもしれないが、自分は完全に流し読みモードに入ってしまった。


のもまりの『リスキー・カサブランカ』は微妙だが一味違う持ち味がうまく出ているかと。
正直冒頭から続く主人公の自意識過剰で説明過多のモノローグにはかなり辟易したし、
すぐ続く相手との出会いでもいきなりキスされて恋人の振りというベタっぷりなので、
その後に続くHシーンなども、辟易して通例のごとく斜め読みで済ませるはずだった。
ところがどうも様子が違い、やんちゃ系の受だと思っていた主人公が攻役で結構驚く。
むしろ典型的な攻キャラ(長身で均整が取れた美形で頭が切れる男)が受に甘んじて
しかしながら攻のへたれっぷりを弄んでもいる辺りがバランスとして非常に面白いし、
意外とこうしたキャラは実際は欲望が少なかったり受動的だったりすることも考えると、
結構予想外にリアリティがあるようにも思え、なかなか思い切った好設定かと思うのだ。

ただやはりガイノベルスなので恋愛と直接関係の無いストーカーの話や裏業界の話が
混じりこんできていて、しかも本作ではこの部分と恋愛譚が有効に絡められていない。
確かにカップリングからして型破りだし、事件の部分も興味を惹くことは惹くので、
結局最後まで読み進めることにはなるが、何か展開に落ち着きが無い印象を受けた。
ストーカーの壊れ方も妙に上滑りというか、キャラから狂気だけが遊離している感じで
一人の有機的な人間として捉えられず、単に凄いご都合キャラとの印象しかなかった。

主人公を追い詰めて話を盛り上げたり、救出劇を描いてカタルシスと慕情の高まりを
描きたいのは分かるが、作者自身が変な茶々を入れたり余計なキャラを絡めたりして
その効果を減殺しているのもどうかと。まあそれでも土壇場のシーンで受がのたまう
「俺の男だ」との発言の絶妙さは特筆せざるを得ないだろうが。受の今までの振舞いや
攻との関係からすれば不意打ちだし、そもそもかなり場違いな発言なのだが、
そのことが却って受の意外なお間抜けぶりや2人が実は気が合うということなどを
読者にうまく伝えることが出来ていると思うのだ。正直呼んでいてはっとしたし。

この他にもキャラ設定や筋の進め方などで、既存の801の枠から良い感じにずれた
新鮮さを含んでいて、なかなか興味深かったし楽しんで読んだことは否定できない。
まあ粗も多いし余計な要素もあって散漫な印象を与える作品であることも確かだが。
ある程度801を読んだ人ほど面白く読めるような気がする。妙にバタ臭いけど(笑)。
編集が作品全体としてのバランスを考えてくれれば結構読める作品になったろうに。


あと7冊ありますが、疲労から来る睡魔には勝てませんで今夜のところはご勘弁を。
愛機を帰省先に持ち込み、可能な限り感想の上梓を目指します・・・。

(初出:『Ethos』「やおい雑記」。本記事は2006年10月12日に転載されたものです。)

by bonniefish | 2004-12-29 03:06 | 小説感想


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