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Ethos-Annex

tanbi3.exblog.jp
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2004年 05月 09日

ローテンション

帰京して1ヶ月、引っ越してからも3週間以上が経ちますが、未だに落ち着かない。
予習復習や六法の確認等なすべきことは山積みなれど日々は逃避のうちに移ろい。
連休は祖母が上京したりその送り迎えに飛び回ったりするうちに過ぎたし、
ようやく揃った本棚に本を詰めるのも諸々の雑事にかまけて進まない。
というかあまりの量に、本棚の集中している方に床が傾くのではないかとの懸念すら。
鉄筋の住宅に住めばよかったが、あいにく建売の家は木造だったので致し方が無く。


たけうちりうと『わからず屋のウインク』は文章の奇矯さをキャラの奇矯さが吸収して
それなりの体裁が整った形となったため、鼻につかず再読できる佳作となっている。
というか改めて振り返ってみると、この作者の作品で私の評価が高いものは、
本作のような形で結果的にバランスが取れている物のような気がしてならない。
文章はきちんとしているが、事案へのアプローチや話の進め方、主人公の性格等に
独特の癖がありすぎるし、しかも割と鼻につくというか、けれんがかっているから
読みながらフラストレーションがたまってしまうことが多いのだ。多くの場合、
このけれん味という強烈なスパイスが作品本来の味を殺してしまっているのだが、
時には調和した味わいをもたらすのであろう。私はそれは決して嫌いではない。
刊行のペースから見て、そのスパイス自体を好む読者も少なくないのだろうなあ。

新田一実『彼の事情 彼氏の理由』は、非常にこなれていて無難に読み進められた。
割と早期に肉体関係を持つようになり、その後心が追いつく過程で前の男が絡んだり
周囲に振り回されたりするが、小気味良く展開していくしそつが無くまとまっている。
若干心情などの書き込みが薄いのはこの作家の性向として仕方がないのだろうが。
地の説明文が多いものの、火崎勇ほどにはテンポも萌えも損なっていないし。
それなりの満足感を得ながらもさらりと読める佳作だろう。それだけという気もするが。


木原音瀬『COLD LIGHT』はなあ、この作者らしい作品としか言いようが無い。
家庭環境がらみの主人公の懊悩にここまで付き合わされるのは余り好みではないが、
その中で過去の受に対し抱くようになってしまった昏い欲動とそれに対する懊悩には
やはり説得力があるし、展開もクライマックスに向け引き込まれるものがあった。
根暗系の受のひたむきな愛が報われる話、として見ることも出来るのだろうが、
それ以上に読ませるものがあることは確かだろう。やはり筆力があることは確かだ。
もう少しテンションを上げたり、主人公の追い込まれ具合を緩めて欲しいものだが。

最近この作家には無駄に主人公を貶めているとしか思えない作品が少なくない気が。
801として楽しむには無理があるというか、作品の「痛さ」を恋愛以外のところに
求めてしまっているが故に、801作品としての分を逸脱しているような気がする。
その「痛さ」故にファンや評価がついている作家だから、それを維持しようとして
こうした逸脱が起きてしまっているのだろうか。だとしたら誠に本末転倒だが。
『小説アイス』かなにかで受が刑務所に入る話は本当に胸が悪くなる話だったので。

(初出:『Ethos』「やおい雑記」。本記事は2006年10月12日に転載されたものです。)

by bonniefish | 2004-05-09 22:32 | 小説感想


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