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Ethos-Annex

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2004年 03月 14日

作家の性向とレーベル

そう大したことを語るつもりではありませんが、まあ仮題としておこうかと。


神奈木智の作品をたまたま続けて読んだのだが、その印象の違いに驚く。
先に読んだのがキャラ文庫『無口な情熱』だが、こちらは読んでいていらつくこと。
何せ主人公(受)をボケキャラに設定したのはいいが、主人公が様々な感情の機微に
気付かないシーンがだらだらと、しかも一人称なので言い訳つきで展開されていて、
「ボケて愛らし」くしたいはずの受がただの「勘違い系自己憐憫馬鹿」になっている。
いや受の馬鹿な思考にいちいちつき合わされるのは本当にストレスがたまりますよ。
この作家は三人称がデフォルトで、割としっかりした説明の落ち着いた文章を書くから、
こんな風にライトでお馬鹿なキャラを書こうとすると作品全体が物凄い軋みをたてる。
なぜボケているのか、なぜすれ違いが起きたのか懇切丁寧に書こうとするスタンスは
本来褒めるべきものであっても、結果的にその丁寧さが受の悪い面を際立たせたり
文章全体に言い訳臭さやくどくどしさを与えることになってしまっている。

おそらく作家としては、一人称小説である以上、主人公の心の動きについては
理由まで含めてしっかり書きたかったんだろうけどねえ、その努力は買うけれども
結果として作品にしてしまうとその試みは大失敗であったといわざるを得ない。
そもそもこの作家に対し、ボケ系のものや一人称のものを書かせること自体が、
個人的には間違っていると思う。初期のこの作家の名作群の性向からしても。
しかし世の出版社・編集者というのはそれを許さないものなんでしょうかねえ。
この作家もそういう方針に乗って自らにそぐわない駄作に近いものを書いているし。
作家が消費されていく様は何人も見てきているが、この人はそれでも生き残るだけの
地力があるだけに、能力が蚕食されていく様を見続ける羽目になってある意味辛い。


その点、後から読んだショコラノベルスの『楽園は甘くささやく』の方が安心して読めた。
三人称の文章は整えられていてすらすらと読めるし、描写も適度に加えられている。
まあ主人公(受)が母親絡みでトラウマを抱えているというお約束パターンになってしまい
それが作品(主人公)に与えたい効果の割には深刻なものとなってしまっているあたりや、
主人公を巡り攻の側で兄弟げんかが起きたりして家庭環境が揺らぐ辺りなどは、
ストーリー全体の流れを乱しているし、散漫な印象を与えている感が拭えないけれど。
主要キャラが多すぎる点と、エピソードを詰めすぎていることも原因だとは思うが、
結果として各キャラの心理描写にページ数が割かれていないのは誠に残念であった。
佳作ではあるけれども、文章力があるせいもあってあっさりと読み終わってしまい、
それ以上の印象を与えるものではなくなってしまっている気がする。
いろいろと料理すれば際立つだけの素材は揃っているだけに勿体無いなあと感じた。


あと読んだのは榊花月『永遠のパズル』で、これもトラウマに頼りすぎというか何とも。
心に傷を持つもの同士が惹かれあったということなんだろうけれども、主人公の攻が
好きだと言い寄る受になぜほだされたのか描写をろくにせずいきなり抱く所や、
体だけの関係を持っている段階での攻の心理描写が少なく、攻の受に対する行動が
素っ頓狂に見えてしまう辺りとか、ラストシーンで去ろうとする受を引き止める描写が
唐突であったりとか、読んでいて散漫でご都合的な印象を受けてしまった。

まして続編は受のトラウマをえぐられる事件が終わらないまま、攻が救いに来たから
それでももうこれでいいんだというような終わらせ方で、不快感を覚えてしまったし。
世の中は酷いものなんだから愛する人から理解さえされればそれで幸せなんだ、との
発想はそれなりに理解できるけれども、作品にするならもう少し救いが欲しいなあと。
(というかそもそもそこまで深い達観を書こうとはしていない気がするし。)
なんだか芝居の書割のような淡白さというか細切れ感のようなものを感じてしまう。
前に篠田真由美の『この貧しき地上に』を読んだ時にも感じた感覚ではあるけれども。


あと、角川文庫になったあさのあつこの『バッテリー』の1巻を読みました。
確かに非常に思わせぶりな物語ですなあ。評価が難しそうだ・・・。
メッセージ性の強い話を正面から受け止めるような青さや無知さは持ち合わせずとも
全く認めず袈裟切りにして嘯くことのむなしさも承知しているつもりなのでね。
文庫版の作者あとがきを読んで本作への評価が下がったとだけは述べておこうかと。

(初出:『Ethos』「やおい雑記」。本記事は2006年10月12日に転載されたものです。)

by bonniefish | 2004-03-14 16:07 | 小説感想


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