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2006年 08月 19日

私的「鷺沼やすな」考

自分の一生とは言わずともここ数年の行く末がかかっているかも知れない事態に対して
いまいち真摯になりきれなくて・・・2択から本気で絞り込みができずに苦吟しております。

そんな心の余裕の無さ(いつあるのだという点はさておき)もあって筆が滑りまくりですが、
ようやく先のコミケで友人に入手して貰った鷺沼やすな女史の同人誌を読み始めたので
それに関連する話でもと。『恋、爛漫』の再版がされていないのが痛すぎるのですが・・・。


彼女の作品を読んでまず思うのは、硬質で端正な文章が非常に私の好みに合うこと。
硬質でありながらぎこちなさの全く無い文章は、巧みに張り巡らされた挙措の描写の妙と
温かい心情描写があいまって、読み手たる私をすぐに作品世界の中に引き込むのです。
状況の説明等も上記の各描写の合間に見事にさりげなく置かれ雰囲気を壊しませんし。
修辞に走れば、柔らかく肌触りの良い作品世界(人物の心情のみならず作者の眼も)が
クリスタルのようなきらめきのある文章に包まれていて、大変に美しいなあと思うのです。

例えば長編であれば、登場人物達は幾つかの大きな出来事に遭い対応を迫られますが、
その出来事の描き方の上手さは勿論、登場人物がそれを内心で受け止めていく過程が
非常に濃やかに巧みに描かれていることが作品全体のリアリティを格段に高めていて、
しかもそれは「801」としてのお話性、ファンタジー性をほぼ損ねることなく並存している。
納得をして話に没頭できるし、優しく紡がれる心情の機微にも心から共感できるのです。

たとえ描かれる出来事や感情が負の要素を帯びるものでも、単に負として描くのではなく
そうした負の背景や構造をきちんと設定した上で適切な形で読者に提示してくれるので、
不快感は勿論、ご都合感を感じることも無く、温かい気持ちのままで読むことができます。
確かな文章力を下敷きに、作品世界の中の出来事を丹念に見つめて優しく描写している
彼女の作品を読む時間は、私が「小説を読む歓び」に浸ることが出来る幸せな時間です。
801ではこうしたひとときを味わうことがめっきり減ってしまっているのですが・・・。

上記のような描写力と観察眼の卓抜さは、諸作品をして上質な物語たらしめていますが、
既存作品の番外編や後日譚において特にその真価を発揮していると私は考えています。
新規作品や長編のようにキャラの新奇さにも事件の大きさにも頼れない状況だからこそ、
「日常の妙味」を卓抜に掬い上げることができる彼女の能力が遺憾なく発揮されるかと。
毎日の何気ない出来事をドラマとして、登場人物達の「今のあり様」を垣間見せてくれる
作品の数々は、本編を通じて彼らのファンとなった読み手にとってはまさに僥倖です。*1

個人的な様々な事情(マニヤ的完璧主義と時間的・金銭的制約との齟齬など)によって
801同人誌に手を出していない私が、禁を破って彼女の同人誌だけを買っているのは、
一つにはこうしたファンとなった作品の続編を読みたいからということが挙げられます。
彼女の作品およびその登場人物たちはどれも、その後を知りたいと思わせるほどに
活き活きと描かれていますし、読んでいて共感せずにはいられない温かさがあるので。
もちろん同人誌で描かれる新作を読みたいというのも動機の別な大きな一つですが。

彼女の作品は『鷺沼企画二番館』でも読めますので(オリジナルが工事中なのが残念)
ご興味が惹かれましたら是非ご来訪を。私はここで『夢の卵』の番外編『シンシア』を読み
初めて同人誌を通販で買う決意を固めたのでした。本名を晒してでも読みたいと思って。
あと彼女に対する書評としてはこちらなどもシンプルにまとめてあって良いかなあと。


*1 昨今は「後日譚」と称し、碌に意味の無い惚気やH描写を添付するのが流行ですし、
人気のある話ではすぐ「続編」と称し、事件か当て馬への誤解に引っ掻き回されるだけの
駄文が垂れ流されるのがデフォになっているようで、個人的には嘆かわしい限りです。
本当にその作品や登場人物を愛しているならこうした所為は噴飯ものだと思うのですが
こうした続編が売れる辺り、愛が表層的というか「萌え」の域を出ていないんだろうな・・・。
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by bonniefish | 2006-08-19 23:59 | 長文雑想 | Comments(0)


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