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2012年 05月 26日

百年一日

逃避癖がさらに悪化してきた結果,ネットサーフィンに割く時間が増えているのですが,
西条公威女史が断筆宣言をしてサイトを閉鎖しているのを発見し,正直驚いています。
過去に一時閉鎖された際には無事再開されましたので,今回も再開を祈るばかりです。


西条公威女史の作品については,その見かけの強烈さから魅力を語るのが容易でなく,
また残念ながら広範な同意を得られるものではないであろうことも明らかであったため,
文章にするのを先送りにしていたのですが,これを機に少しまとめてみたいと思います。

一般的な評としては,彼女の作品はは「痛い」との括りで語られる事が多いと思いますし,
決して間違いではないのですが,これだけでは西条作品の特質を捉えたことにはならず,
むしろ「痛い」とされる他の作品と共通性があるという誤解を招いてしまうように感じます。

欲望・衝動・暴力を,真正面から,しかし一歩突き放して(濃密だがどこか冷やかに)描く,
独特な鋭利さと,男性向けエロにも近いリアルな不品行の描写とが絶妙に溶け合う共存。
登場人物達がその情動にどこまでも忠実でありながら,自らがタブーを犯している事実を
厳然と自認している(諦念または罪悪感)ために生まれる,独特の緊張感,背徳感と高揚。
全ての要素が強烈なパンチ力をもって読者に迫り,「痛み」を感じさせるのだと思うのです。

別な面から見れば,キャラの設定,世界観,描写(特にエロ)において,手加減することなく
書きたい/書くべきものを書いている訳ですから,読者を選ぶのは間違いないでしょう。
(だからといって高尚だと言うつもりはありません。むしろ一面で下品であるとも言えますし)
私自身,高校生のときに初読した際には全く作風を受け付けなかったのも事実です。


よく比較に挙げられる(西条女史は不満だそうで)のが木原音瀬,榎田尤利の両名ですが,
私の読んだ作品を見る限り,西条作品とは目指すものが全く違っていることは明らかです。
両名の作品中の価値観等は,あくまで「こちら側の常識」に基づく画一的なものに過ぎない
見世物主義であり,「異常」「禁忌」を当事者として内側から描いたものではないですから。

個人的な感覚ですが,榎田作品でも「痛さ」はキャラクターをテンプレから脱出させるため,
そしてその葛藤等を描くことで話に一応の深みがあるよう錯覚させるためのものでしょうし,
初期を除く木原作品に至っては,奇矯で歪んだキャラクターが理不尽な言動を取ることが
むしろ「売り」になってしまっている(主客が転倒している)ように思えてならなかったので。

(とはいえ,榎田作品は『永遠の昨日』で食傷気味になり避け始め,ジャンルで買ってみた
 『Largo』も違和感が拭えず,信者の激しさにドン引きして4作しか読んでいないほか,
 木原作品も初期の5,6冊は好きでしたが,キャラの痛さが単なる作話上のツールへ
 なり下がり,意味づけに乏しい卑屈さ,妬み,暴力等をテンプレ的に描くだけになった上
 (特に刑務所シリーズ),やはり信者の激しさにドン引きして読まなくなっているので,
 その後に変化した可能性は否めませんが,西条作品と交錯することはないかなと。)


上記の評からも明白な通り,私は西条作品をその醜悪な面も含めて愛してやみません。
「壊れた」人や世界を描くことは,ともすれば自らが正常であることを再確認するためだけの
低俗な見世物主義に陥りがちですが(残念ながら一部の木原作品などに顕著なように),
西条作品は,常識とは,タブーとは何かをしっかりと踏まえながら,その枠を平然と乗り越え
「こちら側の常識」を揺さぶってくる凄味があり,読者としてただ感服するばかりなのです。

西条作品では,登場人物達は善悪や正否は別として自らの生き様を貫くことになります。
「エス」のように登場当初から突き抜けているキャラクターは蠱惑的な魅力を放ちますし,
自らの情動に衝き動かされ最後にタブーを乗り越えるキャラクターたちの姿もまたリアルで,
圧倒されると共に,いつか自分も同様に堕ちてしまうのでは・・・との恐怖にも襲われます。

換言すれば,西条作品の持つ「痛さ」は,単に登場人物や世界観から「痛さ」にとどまらず,
読み手側の足元を揺さぶり,依って立つ価値観を疑わせる鮮烈なパンチとしての「痛さ」,
自らの在り様を根底から問われる「痛さ」であるとも言えるのではないでしょうか。


また長々と需要の乏しい文章を書いてしまいましたが,奇特な読者子におかれましては,
ぜひ西条作品を一度手に取ってみていただきたいと切に希望するばかりであります。
作品に無料で気軽に触れることができる場としても,サイトの復活を祈るばかりですが・・・。
(完全な男性向けエロ小説も掲載されていましたのでその点でも読み手は選びますね・・・)

最後に再開への期待と込めてサイトへのリンクを貼っておきます。→ 硝酸銀シャワー
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by bonniefish | 2012-05-26 17:36 | 長文雑想 | Comments(0)


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