人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Ethos-Annex

tanbi3.exblog.jp
ブログトップ
2010年 06月 27日

再び百合について思うことなど

相も変わらずグダグダな生活を送っているわけですが,持つべき物は畏友ということで,
再び矢のような催促と本の貸与を受けましたので,また百合について述べてみようかと。


借りたのはナヲコの『プライベートレッスン』が掲載されている『つぼみ』vol.3とvol5。
読み進めるにつけ本誌はどちらかというと男性をターゲットにしているなあという感が強く,
ゲイと801の関係に近しいものがあり面白味を感じたのですが,畏友曰く,ネットでの
レビューなどではレズビアニズムの観点からの感想を述べる方もおられるようでして,
その辺りは801初期のような特権意識と拒否反応のせめぎ合いがあるのかなあと。

偶然作家陣に惹かれて新書館の『ひらり、』を買ってみて比較したせいもあるのですが,
女性同士の恋愛そのものに価値を置くか,男性がいない恋愛という面に価値を置くかという
801と同じような嗜好と評価と批判が当てはまる辺りはそれなりに面白いと思いました。
さらにいうと,この辺に関する書き手や読者,編集者のスタンスなどが煮詰まってくる前に,
商業ベースに乗ってしまった(これは男性ヲタクが買い支えたことが一因でしょう)ために
801以上に同床異夢というか,妙なカオス(時として教条主義的な)がある気がします。

私は百合には全くといって良い程思い入れが無いので適当な事を書き散らせるのですが,
百合というジャンルは,読み手それぞれの哲学なり性的嗜好なりを海容するほどには
成熟していない気がしまして,さらにはそこにレビュアー各人が注ぎ込まんとするパトスも
時にピントがずれていたり肩に力が入りすぎているような気がしてならないのですが・・・。
要は『百合』は『百合』でしかなく,あくまで単なるエンターテインメントでしかないのであって
読み手が投影した「幻想」を他の読者にも強要しようとするのはナンセンスでしかないかと。


すっかり話が逸れてしまいましたので簡単に感想を述べていきましょう。
まずvol.3の方では,秋★枝の『ふへんの日々』が,好感の持てるキャラの間における
友情の延長線上にありえるような淡い恋情をリアルに描いていて面白く読めたなあと。
801でもこういう関係性には萌えがあると思っているのですが,百合として描かれると
よりリアリティが増すというか自然な気がして,前回書いたように,友情からの逸脱として
801で描かれていたものには,女性同士だとよりピントがあうものが少なくないのかなと。

あとはきぎたつみの『アンバランス』はやはりキャラも立っていてストーリーも面白いですが
あまり百合である意味がないというか,普通の作品として描いた方が面白そうかなと。
というかネコ役をこんなにあざとくベタに描かなくても良かったのにという感が強くて。

その余についてはとりあえずコメントすべきものに一言ずつ触れるのみとしますが,
安定感はあるし面白いが往時の深みはなく百合としての必然性も薄いきづきあきら,
ショタ物などでよく見るし百合でも問題なく読める幼馴染ものだがオチが弱い杉浦次郎,
男性愛読者のツボを突いているのだろうなあという以上の感想を抱けない大朋めがね,
ショタか801と間違える星逢ひろ,堀井貴介,キャラの痛さを昇華できない小川ひだり,
悪くないのになぜか心を(あと話も)動かしてくれない玄鉄絢,といった感じでしょうか。

次にvol.5では,まず眼を惹いたのが,彼氏を持ちながら戸惑いの中にいる主人公が
友人に流されるままに性的関係を持つにいたり,今後の両者の関係が動き始めることを
示唆して爽やかに終わる関谷あさみの『ロッシェの限界』。これはかなりの良作でしょう。
いわゆるノーマルな主人公が流されて同性を好きになるというのも801ではベタですが,
この作品では,あくまでも女性の主人公が女性として自我を揺すぶられていくさまが
大変にリアルで読み応えがあり,また間接的な描写ではあるものの,相手方の女性の
戸惑いや切なさも滲み出る作品となっていて,これはなかなか面白いと思いました。

あとは鈴木有布子の『キャンディ』の第1話が完全にツボをつかれて悶絶しました。
第2話は割と普通な恋愛もので,百合である理由を殆んど感じなかったのですが,
この第1話は冒頭から弓道少女はお転婆な少女として大変魅力的に活写され,
相手方のお嬢様もまた鈴木有布子的な凛とした強さと独特の衒いをもって描かれ,
互いの心情描写などが非常に百合度の高い作品になっていて新鮮な驚きでした。
お嬢様の思いがお転婆少女の心を揺り動かしていくあたりが特にまたすばらしく,
清掃活動の場面における双方の戸惑いと共感,お嬢様がお転婆少女の首元に
思わず唇を寄せるあたりなどはまさに百合的な恋愛描写の醍醐味ではないかと。

このように第1話は大変に素晴らしく百合として読み応えがあるにもかかわらず,
第2話からは普通の男女間の恋愛もののようにしか見えてこなくなる辺りは,
同性同士が出会って恋に落ちる所までの設定と描写で力尽きてしまったのか,
或いは付き合い始めてからの過程は性別に関わらず大差ないことの現れなのか。
考えてみるに,801でも,結婚できないことや子供を残せないことを除いてしまうと
付き合いだしてからの話については割に普通の恋愛として描かれていることに
今更ながら気付かされまして,これはある意味興味深い事態だなあと思いました。
横道に逸れましたが,本作はまだまだ大変面白く,第3話への期待は大です。

水谷フーカの『雪のお姫さま』は,前回の記事でも書いたとおり,各キャラの立て方や
話の進行などは大変面白く読めたものの,百合ではないなあという感想を抱きました。
主人公の成長や他のキャラとの絡みの描写はお見事で読み応えがありましたが,
別に百合的な情動にその理由を求めなくとも良いなあという印象がどうしても強くて。
まあ比較的作品を発表しやすい百合や801でまず知名度や評価を上げてから
一般ジャンルで活躍する人も多いので,そういうルートを辿る人なのかも知れません。

きぎたつみの『アシンメトリー』は双子と天然な叔母との掛け合いが妙に面白く,
主人公のいっぱいいっぱい感にやや引きつつも,独特なリアリティを堪能しました。
このような,自我が未成熟というか思春期前期的な視野の狭さと関係性の深さを
しっかり描いている辺りは,この作家の力量を如実に示しているのではないかなと。
まあもう少しキャラを穏当にしてギャグ度を下げた方が上質になるとは思いますが。

その他の作家,作品は基本的にvol.3で描いたのと同様な評価となりますが,
仲良し3人組の中で友情と恋情のあわいを上手に描いて好感が持てる堀井貴介,
絵は好みからずれてきたものの主人公の心情描写などの面が向上した宮内由香,
これまた男性百合読みが好きそうだネタだなあというほた。及びカサハラテツロー,
といった辺りには触れておくべきかなあと。vol.3よりは全般に読めた気がします。

さて,ここまであえてナヲコ作品に触れていない訳ですが,『プライベートレッスン』は
けっして悪い作品ではなく話も良いものの,設定オチというかキャラオチというか,
とにかくストーリーとしての何かが見えてこないような感があって少し残念です。
設定や展開が割に唐突な感じで場当たり的に見えてしまうからなのかもしれません。
情動を活写するのが非常に得意な方なので,百合的なストーリーを描くよりは,
短編や読みきりなどでシーンに特化して濃密な描写をしてくれると嬉しいのですが。
いずれにせよ結果的に展開に幅が出てきましたので第4話も非常に楽しみです。


なんだか本当にこのブログの存在意義が分からなくなってきていますね(苦笑)。
最近は801では杉原理生の作品にはまりだして旧作を買い揃えてみたり,
朝丘戻。や栗城偲がプラチナから新作を出したことに嬉しい驚きを覚えたり,
アンソロの『Canna』が意外と雰囲気が良くて定期購読を決めたりしていまして,
801から離れたわけでは決して無いのですが・・・。Ethosとは判らないものです。

本ブログにも来月から広告が入ったりするようですが,特段引っ越したりもせずに
ふらりと書き込む形になるかと思いますので,思い出した頃にお立ち寄りください。

by bonniefish | 2010-06-27 00:35 | 801雑記


<< みたび平和?な夏      知らぬは本人ばかりなり >>